「無謀」といわれた業績目標を達成するペース

目覚ましい経済成長を続けている中国や新興国。その一方で、日本経済の停滞は長期化している。JFE商事が輸入する主力品目の一つである石炭は、東日本大震災後の火力発電シフトという特殊要因でその重要性が見直されてはいるものの、国内の需要家だけに頼っていては先細りの様相は否めない。そこで期待され始めたのが三国間貿易による新興国への輸出だ。そして2012年4月、鉱石・石炭部に新設されたのが三国間貿易・一般炭チームである。メンバーは4名。3名の営業担当の中で、最年少のメンバーとして配属されたのが彼女だ。
 JFE商事は、サハリンやインドネシアの石炭を国内企業の自家発電設備のボイラー燃料などとして販売するほか、オーストラリアやアメリカ等の石炭を中国や韓国向けに輸出している。
 「およその役割は決めていますが、4人のみの現在のチームでは、全員が協力し、カバーし合い、買い付け交渉から船の手配、通関、荷役、在庫管理、デリバリー、そして入金管理とありとあらゆる業務をこなしています」
 石炭の三国間貿易は2011年度、約100万トンの実績を挙げた。チームが発足した2012年度のチームの目標販売量は2倍の200万トン。
 「無謀とも言われましたが、目標は高く掲げようということで一気に倍になりました。そして、半年で100万トンをクリアしたのです。この調子で目標を達成したいですね」

抜群のチームワークで初のディールを獲得

しかし、JFE商事としては石炭の三国間貿易に関する経験者は少ない。同チームメンバーも初めて携わる者ばかりだ。
「わからないことばかりです。そこでチームでは少しでもわからないことは必ずクリアにしてから進めるようにしています。不明な点は、関係会社に直接聞くなど、あらゆる手段を活用し解決しています。」
 当然のごとく、度々トラブルにも遭遇する。
「15万トンの石炭を輸出する案件を獲得したものの、売先がL/C(銀行の買取保証書)開設を拒否するといった事態や、輸出した石炭の品質が合

わないなどの理由で十数億円規模の契約キャンセルといった危機にさらされています。そのたびにチームリーダーが相手国に飛んで事態収拾を図る、という毎日です」
 しかし、チームワークは抜群だ。チーム初のディール獲得は、輸出元のオーストラリア現地法人スタッフ、輸出先の中国現地法人スタッフとも緊密にやり取りし、サプライヤーと需要家のニーズをうまく合致させることができた成果だった。
「皆が一つになって得た成果でした。本当にうれしかったですね」

パイオニアとして女性営業職の道を切り拓く

彼女が現在踏み込んでいる世界には、契約書の言葉一つ、L/Cの記載内容一つのミスで莫大な損害を被るリスクが多く存在する。そして、それらの処理が一日でも遅れると数十億円の取り引きが水泡に帰するという世界だ。
「メンバー間の多重チェックで間違いを見つけることもあります。しかし、時間をかけてはいられない。冷や冷やの連続でストレスフルですが、だからこそうまくいった時の喜びも大きいのだと思います。むしろ楽しいぐらい(笑)」
 彼女がそこまでこの仕事を楽しんでいるのには、理由がある。小さいころから「大人になったら世界で活躍するキャリアウーマンになりたい」と英語の勉強を始め、30カ国を旅して回り、アメリカやハンガリーに留学した。
「それもこれも、早く社会に出て早く海外に駐在して仕事をしたいという一心でした。それが、JFE商事に入社してまさに希望どおりの仕事に就いているのです。いま頑張らずにこのポジションを失うことは、これまでやってきた10年が無駄になってしまう、と。そして、商社の仕事の醍醐味を存分に味わいたいんです」
 彼女は営業に配属された最初の女性総合職。
「私のあとに続く後輩のためにも、パイオニアとしてこの道を切り拓いていきたいと思っています」
 彼女は、熱い思いで突き進んでいる。