プロジェクトストーリー

アメリカの大手老舗鋼管会社を、自らのグループに JFE商事の将来の可能性を大きく切り拓いた企業買収

2014年12月。アメリカ全土に21カ所、カナダ・イギリス・コロンビアにそれぞれ1カ所、合計24カ所の販売拠点を持ち、油井管やラインパイプ、水道管や構造管などの一般管といった多種多様な鋼管の販売を行っているKelly Pipe Co.,LLCが、JFE商事グループの傘下に入った。北米の鉄鋼市場におけるJFE商事のプレゼンスを大きく高める企業買収の中核的な役割を担ったのが、鉄鋼貿易企画室長の白石朋也だ。業界でも注目されたM&Aの裏側と、白石自身の仕事に対する思いを聞いてみた。

「世界的な視点で見た時に、鉄鋼のニーズというのはとても大きいし、可能性も感じています。新興国での新しい鉄の需要ももちろんですが、先進国におけるスクラップ&ビルドによるニーズも莫大なものがある。そうしたリプレース事業にも注力できるのは、鉄という商材ならではだと思います」。

アメリカ国内大手の鋼管問屋であるKelly Pipe社は、1898年創業の100年以上の歴史を持つ会社。シェールガス・オイルの掘削する際に使用される油井管以外にも、ラインパイプや一般管は、北米・南米の水道管事業などにおいても、大きな需要が期待できる。

Kelly Pipe社の販売拠点

北米大陸では、アメリカに21カ所、さらにカナダに1カ所。そのほか、イギリス、コロンビアに販売拠点を持ち、アメリカ企業有数の販売ネットワークを持つ。

DATA

社名/Kelly Pipe Co.,LLC
本社所在地/アメリカカリフォルニア州 サンタフェスプリング
設立/1898年
事業内容/ラインパイプ・油井管・一般管等の販売
従業員数/295人

主な取り扱い製品
ラインパイプ
油田と精油所などを直結し、石油や天然ガスを輸送するのに用いられる鋼管
油井管
石油や天然ガスを採掘するのに用いられる鋼管
一般管
水道管やガス管、空調ダクト等に幅広く使用される鋼管

JFE商事の未来をも切り拓いたアメリカ大手鋼管問屋の買収

 「今回のM&Aで大きく得られたものは2つあります。一つは、北米における販売ネットワークを獲得できたこと。さらに国内のメーカーが中心だった鋼管の仕入れ先を、Kelly Pipe社のソース囲い込みによって一気に拡大することができました。JFE商事にとって、商社としての事業の幅を大きく広げることができ、今後の可能性への期待はとても大きなものがあります。」
 Kelly Pipe社は、1898年に創業され、100年以上の歴史を持つ、アメリカ国内でも大手の鋼管問屋である。企業のM&Aを扱う鉄鋼貿易企画室の白石のところに同社の買収案件が上がってきてから、およそ2年の期間をかけてその買収は行われた。
「事業投資を行うにあたっては、私たちの方で、『こういう投資をしたい』『この地域でこんな会社を探している』『規模はこのくらい』といった要望をまず出した上で、証券会社などを通じてリサーチします。今回のKelly Pipe社についても、そうしたリサーチがまず、きっかけでした。さらに同社の財務状況や販売力、仕入れソースなどを詳しく調査し、アプローチをすることを決めるまでに半年ほどかかりました」。
 数々のM&Aを行ってきたJFE商事の中でも、Kelly Pipe社の買収は、最大規模のものだった。交渉をスタートしてから、同社の社長との面談を何度も行い、同時に他の経営陣にも話を聞いた。並行して北米におけるマーケットリサーチも実施。市場の可能性の大きさや同社の社風、そして、経営状況も把握して、交渉は詰めに入っていった。

市場調査、経営陣との交渉、さらに調印も 1人の社員に大きな権限を委ねる会社の懐

 「Kelly Pipe社の売先や仕入れ先といった情報にとどまらず、アメリカにおけるパイプ需要や今後の水道事業の予算計上額といったことまで徹底して調べました。企業買収は、買収したあとの企業運営をもしっかりと視野にいれて行うことが大切です。目先の利益ではない、将来の可能性のための投資。買収する会社の従業員も含めて、大切な資産として考える必要があります。それは商社であるJFE商事の基本的な考え方です」。交渉が進められ、今後の運営体制も固まり、契約の調印へとこぎつけた。「当時私は、鉄鋼貿易企画室の一担当課長でしたが、交渉や調査を含めてプロジェクトを推進する中心的な役割を、私に任せてもらって進めてきました。しかし、契約締結日の前日まで、最後の条件細部を一部決めることができず、ついに調印日当日に。調印時は日本とは時差があり、本社に確認を取ることは不可能。契約内容の最終交渉を行い、同席した弁護士と相談しながら、『この条件なら、調印しよう』と私が決めました。先方もこちらの条件に納得して、調印。すぐにその場で支払い手続きを行いましたが、その時の支払いボタンを押す瞬間はさすがにシビれましたね」。
 当時のことを、振り返り、白石は笑いながらそう語った。
「そういう大事な場面でも、会社が思い切って任せてくれる。いい会社だなと改めて思いましたね。そうした経験によって、飛躍的に成長できますから。その成長が会社にとっても発展につながることを、身を持って学びました」。

やりたい思い、そして、実現させる気概 その先に待つのは、自分自身の大きな成長

  Kelly Pipe社のような大型の海外投資案件は、今後も実行される可能性はあるのだろうか。
「可能性は間違いなくあります。アメリカ、メキシコ、そしてASEANなど、海外の鉄鋼関連の事業会社へのJFE商事の投資は、マーケットからも期待感をもって注目されます。販売力、品質面が向上し、結果として企業価値の向上につながって行きます」。
  こうした事業投資、企業買収で最前線を担う白石は、これまでどういう道をたどってきたのだろうか。「私はもともと財務部におり、国内のM&A案件や資金調達を担当していました。その後、経営企画部に異動し様々な投資判断を任されていたのですが、もっと営業に近く、市場に向き合うところで事業投資を行うことになり、今の部署に異動しました。営業と同じ視点で市場を見ながら、事業を成長させるための投資事業は、格段にやりがいがありますね。これから若い人たちにも、こうした経験をぜひ味わってもらいたい。そのために必要なのが、『こういう事業をしたい』『こういう商売がしたい』という思い。その強さが自分の道を切り拓いていきます」。第2、第3の白石の登場を、ぜひ期待したい。

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